キューブリックの怪作「時計じかけのオレンジ」考察 自由意志とは何か
こんにちは、管理人のかずです。
今回はスタンリー・キューブリック監督の奇作、「時計仕掛けのオレンジ」の考察記事を書きたいと思います。
性暴力などの過激な描写が話題の今作ですが、テーマは奥深いものがあります。
トレイラー
A Clockwork Orange (1971) HD Trailer (1080p)
日本語字幕がないですが、独特の雰囲気はつかめると思います。
作品情報
タイトル(原題) | 時計じかけのオレンジ(A clockwork orange) |
公開年 | 1972 |
上映時間 | 137分 |
製作国 | イギリス |
監督 | スタンリー・キューブリック |
脚本 | スタンリー・キューブリック |
ジャンル | ドラマ、クライム |
主要キャスト | マルコム・マクダウェル パトリック・マギー マイケル・ベイツ ウォーレン・クラーク ジョン・クライヴ エイドリアン・コリ カール・ドゥーリング ポール・ファレル オーブリー・スミス スティーヴン・バーコフ |
配信サイト | プライムビデオ |
あらすじ
喧騒、強盗、歌、タップダンス、暴力。山高帽の反逆児アレックスは、今日も変わらず最高の時間を楽しんでいた ― 他人の犠牲の上にのみ成り立つ最高の時間を。モラルを持たない残忍な男が洗脳によって模範市民に作りかえられ、再び元の姿に戻っていく。
引用:
見どころ
- 不快感を覚えつつもどことなく芸術性を感じるレイプシーン
- 独特のファッション、オブジェ、言い回し、世界観
- 自由意志とは何か?善悪を選べない人間は人間たりうるか
- アレックスの口パク
俳優
マルコムマクダウェル(アレックス)
暴力、レイプ、強盗…人殺し以外の悪事ならなんでもござれの不良少年。
名曲「雨に唄えば」を歌いながらのレイプシーンは、この映画の有名なシーンの一つ。
後に仲間の裏切りにより投獄され、犯罪者更生プロジェクト「ルドヴィゴ治療」の被験者となり、立派に更生するが…
感想(ネタバレなし)
強烈なレイプシーンや絡みのシーンがあるため、見る人を選ぶ作品。
そういうものに嫌悪感を示す方は、スルーすることをお勧めします。
一見すると、そう言ったシーン”だけ”が話題性を呼び、カルト映画としての人気を博したようにも見えますが、テーマは非常に奥深く、考察の余地のある作品に仕上がっていると言えます。
ただ、人にオススメする映画としてこの映画を勧めると、人格を否定されかねないので注意しましょう。
個人的に、独特の世界観やファッションを含めて、イマイチ好きになれない作品でしたが、下記で説明する「自由意志」について考えさせてくれるきっかけを与えてくれた映画として、評価は高いです。
考察
自由意志とは?
この映画の重要なテーマとして自由意志があります。
自由意志とは何か?
それはキリスト教において、善悪を選ぶ事ができる、神が人間に与えた権利です。
一神教であるキリスト教において、何故、善と悪が存在するのか?
善のパワーを持った神と、悪のパワーを持った神が存在するような多神教とは違います。
一神教の神が、わざわざ、悪の存在を認めた理由、それは選択の余地を与える事により、神に仕えるという選択に重みを持たせるためだと僕は解釈しています。
仮にもし、善(神に仕える)しか存在しない世の中である場合、神に仕える行為には義務感が伴います。
真の礼拝、それは選択の自由意志の元でのみ実現します。
キリスト教における神は、機械的に神を拝む事を良しとしませんでした。
人々は自分の意志で以って、神に仕えるかどうか(良い行いをするかどうか)を選びます。
自由意志とは、即ち人間性であると僕は考えます。
自由意志を奪われたアレックス
強姦や盗みなどの、暴力の限りを尽くしてきたアレックスは、仲間の裏切りにより、とらわれの身となってしまいます。
異常な暴力性を秘めたアレックスは、しかし刑務所内では模範囚として振る舞います。
かくして、政府主導の犯罪抑制プロジェクト、ルドヴィゴ治療の被験者になる代わりに、仮釈放の恩赦に預かることになります。
ルドヴィゴ治療とは、一言で言うと、人間矯正療法です。
不快感を伴う薬を与えつつ、暴力シーンのある映画を見せて、体に「暴力=不快感を伴うもの」と覚えこませ、被験者を暴力のできない体にさせると言うものです。
かくして、暴力性を全く持たないアレックスが誕生します。
しかし、そこには善悪の判断はありません。
パブロフの犬の如く、条件反射で悪を拒絶しているにすぎません。
人間らしさは皆無の、人形状態。
まさに時計仕掛けのオレンジ(マレーシア語での人間の意)の完成です。
国家の奴隷に成り下がるアレックス
暴力性を抜き取られ、100%善良な人間となったアレックスを見て、安堵の気持ちになった鑑賞者は果たしてどれだけいたでしょうか。
一人の善良な市民を作り上げた政府に、拍手喝采したくなる鑑賞者はどれだけいたでしょうか。
暴力の報復と称して、抵抗を一切せず、リンチの憂き目にあうアレックスを見て、清々した気持ちなる人はどれだけいたでしょうか。
過去にレイプした女の夫からの復讐の結果として、身投げして重傷を負ったアレックスを見て、「ざまあみろ」と言った気持ちになった人はどれだけいたでしょうか。
アレックスの暴力とはまた別の、政府の”大人の”暴力によって人間性を剥ぎ取られたアレックス。
それを見て、これが理想の状態と言える人はどれだけいたでしょうか。
アレックスの重傷が原因で、ルドヴィゴ療法を推進していた政治家は、自身の政治家人生の進退を決する岐路に立たされます。
そこで彼はアレックスを利用することを思いつきます。
自身が完治したことをアピールし、ルドヴィゴ治療は正しかった事を証明させようとします。
そして、それを快諾するアレックス。
めでたく時計じかけのオレンジ(=国家の奴隷)の誕生です。
現代社会の問題点を網羅
古い映画であるにも関わらず、今見ても色褪せない魅力を放つのは何故でしょうか?
それは、現代社会の問題点を突いた社会風刺が、随所に盛り込まれているからに他ならないからでしょう。
自分の汚職事件の隠ぺいしか頭にない政治家、息子(アレックス)のことには無頓着で距離の置き方が下手な両親、そして近未来の管理社会描写。
映画としてのエンターテイメント性
自由意志をテーマにしただけの映画でしたら、もしかしたら野暮ったく重苦しいだけの映画になっていたかもしれません。
しかし、この映画は、奇抜な衣装やオブジェ、暴力とオーケストラを融合させた独特の描写がそれを許しません。
今見ても、衝撃を受けること間違いなしの映像です。
個人的に、この映画以上にスタイリッシュなレイプシーンが盛り込まれた作品を他に知りません(そんなにレイプシーンのある映画を見ませんが)。
まとめ
人によっては嫌悪感だけが残る映画であるにも関わらず、ここまで評価が高いのは、独特の世界観と演出、そして重厚なテーマがあるからに他ならないと考えます。
人間らしさって何なんだろうか?そんなことを考えさせられるいい映画。
結局良いところも悪いところも含めて人間なんだろうなーと。
法に触れるような悪いことをしてはいけませんが、ちょっとした間違いならお互い大目に見ましょうよ…なんてちょっと穏やかになれるような映画だったりそうでなかったり(強引)。
個人的には星5をつけたいですが、人間性を否定されかねませんので、星は4つにしておきます。決して意中の女性と見ないように。
タクシードライバーのトラヴィスの如く撃沈します。