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ループ映画「パラドクス」感想と考察

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こんにちは、管理人のかずです。

今回はイサーク・エスバン監督のデビュー作「パラドクス」についてネタバレありで感想と考察を書いてみようと思います。

イサーク・エスバン監督と言えば「ダークレイン」で一部映画ファンの間では有名らしいです(僕はまだ見てないです)。
とりあえず「ダークレイン」がぶっ飛んでいる映画らしいですが、今回紹介する「パラドクス」を見て納得。

中々にぶっ飛んでる設定と描写に、イサーク・エスバン監督の頭の中身が心配になりそうでした。

ということでループ映画「パラドクス」の感想です。

 

 

トレイラー


映画『パラドクス』予告編

作品情報

タイトル(原題) パラドクス(The Incident/El incidente)
公開年 2014
上映時間 101
製作国 メキシコ
監督 イサーク・エズバン
脚本 イサーク・エズバン
ジャンル スリラー
主要キャスト ラウル・メンデス
マグダ・ブルゲンヘイム
ウンベルト・ブスト
エリック・トリニダード・カマチョ
エンリケ・メンドーサ
配信サイト レンタルのみ

 あらすじ

繰り返される「今日」― 待つのは「死」か、「明日」か。ある日突然、刑事と犯罪者の兄弟、家族4人が出口のない空間に閉じ込められた…。 刑事と兄弟が足を踏み入れたビルの非常階段。そこでは1階を下るとなぜか最上階の9階が出現、何度下っても同じ9階に辿り着いてしまう。一方、家族4人が迷い込んだのは荒涼とした大地が続く中の一本道。真っ直ぐ車を走らせても、どうしても元の同じ道に戻ってきてしまうのだった。そんな中、刑事に足を撃たれたカルロスは瀕死となり、長女カミーラは持病の発作で危険な状態に陥る…。今、体験していることは夢なのか?それとも現実なのか?そして彼らはこのループする空間から無事に脱出できるのか!?

引用:パラドクス - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

 

 感想と考察

非常階段

冒頭、エスカレーターで横たわる花嫁姿の老婆のアップという、見た目のインパクトも絶大なオープニングで、物語はスタート。
一体どういうこと?と思ったのもつかの間、舞台はとあるアパートに移ります。

刑事マルコに自室に踏み込まれる犯罪者兄弟、カルロスとオリバー。あわや連行か、と思われましたが、何とか隙をついて非常階段からの逃走を図ります。
しかしマルコに脚を撃たれてしまい、身動きが取れなくなるカルロス。
どうすることもできない二人はマルコに追い詰められますが、ここで突如爆発音が鳴り響きます。
外に出ようとする3人。しかし扉は開かず、非常階段は1階から下に降りると何故か9階にきてしまうトンデモ空間に。 
戸惑う3人。手すりの隙間から鍵を落とすと、大方の予想通り、その鍵が上から降ってきます。

ループする世界に閉じ込められた3人。
何故か自動販売機のお菓子とヌードル、水は無限に出てくるようなので、餓死する心配はないですが、脚を撃たれたカルロスは出血多量で死亡。

生き残った二人はループする不条理ワールドから脱出できるのか??
ここからこの二人の知恵を振り絞った脱出劇が始まるのか!

そう思った矢先、舞台は唐突に変わります。

道路

物語は旅支度を進める家族に移ります。
生意気そうな少年ダニエル、妹のカミーラ、母親のサンドラ、そしてサンドラの恋人のロベルト。
4人はサンドラの元夫が務めるホテルにて休日を満喫することに。
ロベルト的にはあんまり気が乗らないだろうなー。自分だったら絶対いやです。
そして明らかにロベルトを毛嫌いしている様子のダニエル君。態度が露骨でちょっと笑えます。
職場のいやな奴に対する僕の態度と一緒です。

とにかく4人は田舎の一本道を使い、車で目的地を目指します。

しかしその途中、ガソリンスタンドで休憩中、事件が起きてしまいます。

ロベルトがカミーラに与えたグアバジュースが原因で、カミーラが喘息を起こしてしまいます。
薬の容器はロベルトが踏み潰してしまったため、仕方なく家に戻ることに。
何ともバツの悪そうなロベルト。  
ここで、非常階段でもあった謎の爆発音が響き渡ります。

大方の予想通り、一行はループする世界に閉じ込められてしまいます。
来た道を戻っても、先に進んでも、横に進んでも結果は一緒。
元の場所に戻ってしまいます。

発狂しながら暴走運転をするサンドラ。
途中、ダニエルを轢き殺しそうになったりとかなりご乱心の様子です。

こいつらどうなるんだろー、っていうか非常階段の連中は?
そんな事を思っていると、再び舞台が変わります。

そしていきなり35年後に

舞台は最初の非常階段に移ります。

あの二人は現在どうなっているのか?
あれから状況は進呈しているのか?

そう思うのもつかの間、画面にはヨボヨボで今にも死にそうな爺さんのアップが映し出されます。
見た目のインパクトもかなりのものですが、この爺さんは何とマルコの成れの果て。
オリバーとマルコは35年もの間、この非常階段に取り残されていたのです。

無限に供給され続ける自販機のお菓子とペットボトル、そしてオリバーのリュックの中身。それは35年の月日を通して、おびただしい量になっていました。

理路整然と積み上げられたこれらの使用済み容器と排泄物の入ったペットボトル、そして壁一面に描かれた落書きが、35年という気の遠くなるような月日を嫌が応にも認識させられ、変な笑いが出てきます。

そして、ヨボヨボで何のために生きているのか分からない死にかけのマルコとは対照的に、筋トレとランニングを欠かさないオリバーは筋骨隆々のマッチョマンになっていました。
読書も欠かさず、髭を丁寧に剃るオリバー。
こんな狂った状況においても時間を有意義に使う彼をよそに、過去に囚われ、記憶を頼りに壁一面に落書きをし続けるマルコ。

しかしそんなマルコの下の世話と介護をオリバーは甲斐甲斐しく行います。
実の兄貴の仇でもあるマルコは、長い年月を経て運命共同体となっていました。

 

衝撃の老人のオセッセシーン

そして再び舞台は変わり、道路の家族に移ります。
ここまでくるとこの家族のその後も気になるところです。

無限増殖する売店のお菓子の袋が大量に散乱する道路にて、呆けた面で突っ立っているお腹がでっぷり出た男。服もボロボロで、髪も真っ白。
ここまでくるともう予想がつきますね。彼こそサンドラの彼氏のロベルトです。
どうやら、こちらでも35年の月日が経っていたようです。
ここまでくると、感覚が麻痺しているのかそこまで驚かなくなってきます。

ところがどっこい、この家族は、我々の想像の斜め上を行きます。

映像が切り替わり、そこには何やら上下に揺れる車が。
中では何と年老いたサンドラとロベルトがせっせとおセックスをしているではありませんか。
マニア向けのAVでももうちょいマシな企画を思いつきそうな衝撃の絵面に、最早笑うしかありません。

娘のカミーラを失ったショックで廃人同然になってしまったサンドラを、35年間も抱き続けたロベルト。
抱かれているのかどうかすらわかっていない様子のサンドラ。
この時のサンドラの顔は、おそらく10年は自分の脳裏に焼き付いて離れない気がします。なんてことをしてくれたんだ、監督。

一方、息子のダニエルはそんな両親には見切りをつけ、一人でテントを立て、サボテンを食料に自活する生活を選びます。

ここでも極限まで堕落した老人と、前向きに生きる若者の対比が存在します。

結びつく二つの物語

その後、35年間抱かれ続けた廃人、サンドラはついに息を引き取ります。
そして、自分ももう老い先短いと悟ったロベルトは不意に何かを思い出し、それをダニエルに訴えます。
場面は変わり、死にかけのマルコも、文字通り今にも死にそうな面持ちでオリバーに以下の内容を告げます。

それは、このループ地獄を経験したのは今回が初めてではないこと。

ロベルトは昔、ルーベンという名の少年で、イカダを漕ぐ大人と共に、35年のループ地獄に陥ったとのこと。
そしてマルコは昔ダニエルという名で、道路に閉じ込められ…そう、何とダニエルとマルコは同一人物だったのです。

ルーベンはイカダを漕いでいた大人の死により、ループ地獄から解放され、新しい名前「ロベルト」と新しい記憶と共に、再び35年ループに陥ってしまいます。

合計で70年という、一生とも言っていい年月をループ世界で費やしたロベルトとダニエル。
彼らはなぜ、そんな筆舌に尽くし難い苦行を強いられなければならなかったのでしょうか?

実世界へ供給される生のエネルギー

この物語はパラレルワールドとして、実世界とループする異世界に分けられます。
二つの世界は相互に作用しあい、異世界での活動、行動がそのまま実世界の自分に反映されます。

生の活力に満ち溢れた若者であるダニエルとオリバーは、ループする世界でも時間を有意義に使います。
そんな正のエネルギーが現実世界の彼らにも作用し、実体としての彼らに幸福をもたらします。

一方で人生に諦観し、日々を自堕落に過ごしてしまった老人であるロベルトとマルコは、その現実世界においても悲惨な末路を遂げることになります。

未来のある若者が幸福になり、老い先短い老人が不幸になるという、そんな世の真理ともいうべき世界。

その裏では、無限ループする世界でもがき苦しむもう一人の自分の生のエネルギーが関係していました。

ループは終わらない

ロベルトとマルコは、忠告をします。
自分の名前を覚えておくようにと。抜け出せるようになったとしても決してそれに従うなと。何とかこの無限ループの世界から抜け出せる知恵を授けようとします。

しかし、35年という長い年月をループ世界で過ごしてきたダニエルとオリバーにとって、”出口”は贖いようのない魔性の魅力を放っていました。

ダニエルがそうしたように、オリバーも非常階段にあるエレベーターのボタンが点灯したのを見て、逡巡の後、それを押してしまいます。

因果律と共に新しい名前と記憶を与えられるオリバー。
エレベーターのベルボーイとしてそこに居合わせた新婚カップルを無限ループに引きずり込みます。
ここで初めて冒頭の花嫁姿の婆さんがこの時の女性だとわかります。

恐らく、このホテルの通路にてオリバー(新しい名前はカーン)と女性が35年のループ地獄を経験し、その後、女性はエスカレーターにて無間地獄を経験するのでしょう。

冒頭とラストが繋がる、この映画自体がループしているという何とも憎い演出。

恐らく、この後もループは繰り返されることでしょう。

実体としての自分にエネルギーを与えるだけの存在、ループする世界でひたすら同じことの繰り返し…それは劇中でも度々映し出されるハムスターの回し車のようでもあります。

結局何が言いたかったのか

つまるところ、この映画で言いたいことは何だったのか。
若者が生に積極的で幸福であり、老人が不幸…という図式はいささか乱暴に過ぎるような気もします(実際逆パターンも多いですし)。

恐らくではありますが、この登場人物以外でもループ世界に陥った人々はそれこそ現実の人の数だけ存在しているのかもしれません。

現実世界で生きるために、ループ世界に囚われた人々…彼らに生のエネルギーを供給し続けるだけの存在、そんな囚人とも呼べる彼らこそが、我々人間の人生を象徴しているのかもしれません。

同じことの繰り返しの中で生きる意味とは何なのでしょうか。

人類は地球の熱循環システムの一部で、地球という実体に向けて熱というエネルギーを供給し続けるだけの存在…やや突飛ですがそんなことも考えてしまいます。

見た後もわだかまりが残ってしまう本作。

肯定的にこの映画で言いたかったことを解釈するならば、せめてループ地獄に陥っているもう一人の自分に報いるためにも、精一杯生きよう…ってな具合でしょうか。

生のエネルギーがある限りは力一杯生き続けましょう。

ということで無理やりまとめました。

個人的に非常に楽しめましたので、いろんな方にオススメしたい作品です。

イサーク・エスバン監督、おそるべし

 

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