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映画「タクシードライバー」 ベトナム帰還兵の苦悩と男のカタルシスを描いた名作

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こんにちは、管理人のかずです。

今回はロバート・デニーロ主演の名作「タクシードライバー」について、ネタバレありで感想を書きたいと思います。

 

トレイラー


Taxi Driver (1976) - [Official Trailer HD]

日本語字幕なしです。

作品情報

タイトル(原題) タクシードライバー(taxi driver)
公開年 1976
上映時間 114分
製作国 アメリ
監督 マーティン・スコセッシ
脚本 ポール・シュレイダー
ジャンル ドラマ、クライム
主要キャスト ロバート・デニーロ
シビル・シェパード
ピーター・ボイル
ジョディ・フォスター
アルバート・ブルックス
配信サイト プライムビデオ
U-NEXT
Netflix
(記事公開時)

 

あらすじ

タクシードライバーとして働く帰還兵のトラビス。戦争で心に深い傷を負った彼は次第に孤独な人間へと変貌していく。汚れきった都会、ひとりの女への叶わぬ想い - そんな日々のフラストレーションが14歳の売春婦との出逢いをきっかけに、トラビスを過激な行動へと駆り立てる!!

引用:タクシードライバー - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画

見どころ

  • ベトナム帰還兵が抱く疎外感
  • 社会に居場所のない若者の苦悩
  • 何かを成し遂げたいが何もできない苛立ち、何者にもなれない思い
  • ロバートデニーロの演技
  • ラストシーンのカタルシス

 

俳優

ロバートデニーロ(トラビス)

ベトナム戦争からの帰還兵。日々の生計を立てるために、タクシードライバーとして働いています。
社会に馴染めず、初デートでポルノ映画を見に行くなど、どこかズレています。

思うようにいかない日々に苛立ちつつも、自分はこのままでいいのかと自問自答する生活を送ります。
現代に生きる人にも共通する悩みを持っている方は多いと思うので、共感できる人は多いかもしれません。

ジョディ・フォスター(アイリス)

12歳ながら売春婦として生計を立てる女の子。雇い主から逃げるようにトラビスのタクシーに乗ったところから、彼らの関係は始まります。現状に不満を抱きつつも、夜の街で客を漁る生活を送ります。

シビル・シェパード(ベッツィ)

バランタイン上院議員の選挙スタッフの女性。聡明な雰囲気を漂わせます。トラビスから口説かれ、初デートに行くも、そこでポルノ映画を見せられ激怒。以後、音信不通になります。まあそりゃそうですね。

 

考察

この映画を楽しむ上で、ベトナム戦争への理解は切っても切れない関係にあると思いますので、簡単に説明だけしたいと思います。

 ベトナム戦争とは?

1955年から1975年にかけて起こった、南北に分裂したベトナムで起こった独立と解放の戦争です。
北を中国やソ連などの社会主義国が支援、南を資本主義のアメリカが支援。
社会主義の拡大を恐れたアメリカは、北ベトナムを攻撃。
この戦争はすぐに終わると思われましたが、北の予想外の反撃に消耗戦の様相を呈してきます。
人的被害が拡がり、次第にアメリカ世論もこの戦争に対して否定的になります。
そして、戦争反対運動と経済的資源の枯渇により、アメリカは撤退を余儀なくされます。こうしてベトナム戦争終結
アメリカ国民の間ではあまり触れたがらない、自国の恥部となった戦争でした。

帰還兵の苦悩

ベトナム戦争を生き抜いた英雄として、最初のうちは讃えられていた帰還兵たちも、時流と共に国民の興味は薄れ、やがて忘れられていきました。

戦地にて生死をかけた戦いに身を投じてきた兵士は、お互いに一致団結をしてきました。
そこに思想や生まれ、肌の色での差別はありません。
しかし、アメリカに帰るとそこには学歴や宗教、所得格差で人々を差別する世界が広がっていました。

「お国ために戦ってきたが、国でどう生きていいのか分からない」

そんな苦悩に苛まれ、自殺をしてしまう帰還兵もたくさんいたそうです。
戦地とのあまりのギャップに戸惑い、中には戦地が恋しくなる兵士もいたそうです。
そしてうまく社会に馴染めない”特殊”な彼らを国民は次第に疎むようになります。

社会に居場所のない若者たち 

トラビスもそんな苦悩を抱えた帰還兵の一人でした。
祖国アメリカは想像以上に、腐っているように見えました。
掃き溜めのゴミのような都会の人々、自分達を疎んじる人々。
関わりのあるコミュニティは会社の同僚のみ。

こんなゴミのような地で、くすぶってていいのか。 
自分はこのままでいいのか。自分は一体何者なのか。

何か大きいことをしたい…けど何をしたらいいのか分からない。

トラビスはそんな苦悩に苛まれるようになります。

このような社会に居場所のない人は、現代にも存在しているように思えます。
そしてそのような人々は、自己表現、又は自分の存在に気づいてもらうため、時として無差別殺人のような思いもよらぬ凶行に及ぶことがあります。

居場所がない人は、狂気によって人に注目されようと考えます。

昨日の悪が今日の善になる世の中

トラビスも思い通りにいかない日々、気になる女性への叶わぬ想いから、徐々にその心の内に狂気を宿すようになります。
そして彼は、バランタイン上院議員の暗殺計画を思いつきます。
拳銃を購入し、肉体改造を施し、銃が即座に撃てるようなギミックまで作り上げます。

結局、彼は暗殺に失敗しますが、それとは別に絶好の粛清対象を見つけます。
それがアイリスのポン引きをしているスポーツでした。
腐りきった世の中に嫌気の差していたトラビスは、街の”浄化”の一環として、スポーツとその仲間を撃ち殺します。

犯行現場に駆け込む警察官。死体の側で不敵な笑みを浮かべるトラビス。
殺人罪にて起訴されると思いきや、事態は思わぬ方向に向かいます。

トラビスは家出娘のアイリスを救った英雄として、各紙一面のトップを飾ったのです。
仮にトラビスがバランタイン上院議員の暗殺にて、自身の存在を世に知らしめたならば、こんな結末にはならなかったでしょう。

トラビスはかっこいいのか?

結果として、良い行いをしたトラビス。
各メディアからも英雄扱いされ、アイリスの両親からも感謝されます。
そんな彼を見て「かっこいい!」と思う方もいるかもしれませんが、僕はそうは思いません。

彼は単純に運が良かっただけです。

上記にもあるように、その狂気の矛先が、バランタインに向かっていれば、結末は180度違ったものになっていたでしょう。

大事を成した彼はどこか誇らしげでした。
しかし、その目には確かな狂気が宿っています。

自分の行いが、メディアにて”正しかった”と証明されてしまいました。
彼はこの先、別の対象にその狂気の矛先を向けるかもしれません。

兎にも角にも、映画自体は一応のハッピーエンドを迎えます。

映画としてもエンターテイメント性は?

さて、この映画の面白さはどこにあるのでしょうか?
個人的にはラストシーンに集約されているように思えます。

初デートでポルノ映画を観せられたベッツィは、トラビスとの関係をきっぱりと断ち切ります。
そんな彼女が、トラビスが英雄扱いされた途端、彼のタクシーに自ら客として乗り込みます。
自宅の前まで送ってもらった彼女は、トラビスを誘います。

ただ、トラビスは一言こう言って立ち去ります。

「じゃあ」

一度自分をフった女を振り向かせた上でフる。

男としてのカタルシスがそこにはあります。

仮に最後に彼女の家に上り込むような展開になれば、この映画の魅力は半減したかもしれません。

間違った方法ではありますが、一応は男を上げた(と勘違いしている)トラビス。
それに惹かれてしまったベッツィ。
彼女も彼女でちょっとありえないような気もしますが…(笑)

 

まとめ

ベトナム戦争に関連した映画ですが、その知識が無くても単純に楽しめる映画です。
トラビスのくすぶる思いは、恐らく現代に生きる我々にも共感できるものだと思います。
映画としても名言シーンや各俳優の名演技、そしてラストシーンなど見どころも満載です。
個人的には色褪せない名作として語り継がれるべき作品だと思います。